大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成8年(行ウ)14号 判決

原告

恒川栄男(X)

(ほか三一名)

右三二名訴訟代理人弁護士

原山剛三

森田茂

被告

名古屋市長 松原武久(Y)

右訴訟代理人弁護士

鈴木匡

大場民男

右訴訟復代理人弁護士

鈴木雅雄

深井靖博

堀口久

事実及び理由

第三 当裁判所の判断

一  法一八条違反について

1  事実関係

〔証拠略〕によると、次の事実が認められる。

(一)  本件組合の設立発起人らは、平成七年三月、定款案、事業計画(案)概要、「同意書についてのお願い」と題する書面、「同意書の記入方法」と題する書面、同意書用紙を各権利者に配布した上、同年四月から五月にかけて、説明会を開催した。

説明会には、一〇〇〇人の権利者(全権利者の約四四パーセント)が出席した。

説明会では、設立発起人らが、縮尺一〇〇〇分の一の設計図を会場の前に貼って、定款案や事業計画案についての説明をし、質疑応答に応じた。また、説明会の会場に相談コーナーを設けて、個別の相談に応じたほか、閲覧コーナーを設けて、施行地区位置図、施行地区区域図、右設計図等を閲覧させた。

(二)  右「同意書についてのお願い」と題する書面には、「定款、事業計画(案)を十分ご理解の上、同意書への署名及び押印をお願いします。」と記載されていた。

同意書用紙は、別紙(一)のもので、「私が所有権(借地権)を有する下記の宅地を、名古屋都市計画事業中志段味特定土地区画整理事業の施行地区に編入し、設立認可申請者が定める定款及び事業計画により土地区画整理事業を施行することに同意します。」と記載されていた。

(三)  事業計画(案)概要には、事業の目的、事業の名称、施行者の名称、施行地区の区域、施行地区の面積、減歩率、事業費の総額、事業年度及び事業内容(道路、公園、緑地、河川、水路についての整備の概要、移転する建築物等の概要、整地方法、集合農地区を設けること等)が記載され、事業施行前後の地積の対照表、減歩率計算表、資金計画表及び縮尺三五〇〇分の一の設計図が掲載されていた。

事業計画(案)概要は、事業計画の内容を要約して説明したもので、本件申請において被告に提出された事業計画書と比べた場合、事業の内容の説明が簡略であるほか、事業施行前後の地積の対照表及び資金計画表も簡略化されており、事業計画書に添付されていた縮尺二万五〇〇〇分の一の施行地区位置図、縮尺一〇〇〇分の一の施行地区区域図及び縮尺一〇〇〇分の一の設計図は添付されておらず、右設計図を簡略化した縮尺三五〇〇分の一の設計図が掲載されていた。

また、事業計画書と事業計画(案)概要について、事業施行前の地積を比べた場合、別紙(五)(1)のような差異があり、減歩率についても、別紙(五)(2)のような差異がある。これは、事業計画(案)概要作成後本件申請までの間に所有権の移転があったため、公共用地、宅地、測量増の各地積に変動が生じたためで、地積の総合計は一九二万平方メートルで変わらず、減歩率の差異も、右の公共用地、宅地測量増の各地積の変動によって生じたものである。

(四)  平成七年三月一日に大都市法が改正されて、特定土地区画整理事業における集合農地区の面積の要件が「おおむね〇・二ヘクタール以上」から「おおむね五〇〇平方メートル以上」に変更され(大都市法一七条二項三号)、施行者は、集合農地区へ換地の申出がされた宅地の地積の合計が「おおむね〇・二ヘクタールの面積の換地を定めることができる規模以上」であるときは、集合農地区内に、右申出のあった宅地についての換地を指定しなければならない旨の規定が、施行者は、集合農地区へ換地の申出がされた宅地の地積の合計が「おおむね五〇〇平方メートルの面積の換地を定めることができる規模以上」であるときは、集合農地区内に、右申出のあった宅地についての換地を指定しなければならない旨の規定に変更された(大都市法一八条二項)。

右改正法が平成七年五月二五日に施行されたことにより、本件組合の定款案七七条一項は、同日、「大都市法一八条二項に基づき定める従前宅地の地積の合計は、三〇〇〇平方メートル以上とする。」との規定から、「大都市法一八条二項に基づき定める従前宅地の地積の合計は、八〇〇平方メートル以上とする。」との規定に変更された。

本件組合の設立発起人らは、右定款案の変更に伴い、配布した定款案を差し替えることはしなかったが、権利者に配布した平成七年六月発行の「中志段味まちづくりだより」に、定款案が変更されたことを記載した。

(五)  権利者は、平成七年四月ころから設立発起人に同意書を提出し始め、最終的には、本件組合の施行地区内に宅地を所有する者二二三三人の七六・七五パーセントに当たる一七一四人の者が、別紙(一)の様式の同意書を提出した。また、別紙(三)記載の七人の者が、右施行地区内の宅地に借地権を有する者として、別紙(一)の様式の同意書を提出した。

2  同意の対象について

右1認定の事実によると、本件組合の設立発起人らは、各権利者に対して、定款案及び事業計画(案)概要を配布して、説明会を行い、十分定款案及び事業計画案を理解した上で同意することを求めたところ、一七一四人の者が所有者として、別紙(三)記載の七人の者が借地権者として、別紙(一)の様式の同意書を提出したことが認められる。そして、以上の事実に、別紙(一)の様式の同意書には、「申請者が定める定款及び事業計画により土地区画整理事業を施行することに同意します。」と記載されていることを総合すると、権利者は、定款及び事業計画について同意したものと認められる。

確かに、事業計画については、事業計画案自体ではなく、事業計画(案)概要が配布されたのみであるが、右1認定の事実によると、これは、事業計画案の要点を記載したものである。また、事業計画(案)概要は、右1認定のとおり、事業施行前の地積及び減歩率の記載が、本件申請において提出された事業計画書とは異なるのであるが、この差異は、事業計画(案)概要作成後の所有権の変動によって生じたもので、地積の総合計は変わらず、減歩率の差異も右事業計画書の方が権利者に有利になっているのであり、その他に、事業計画(案)概要と右事業計画書との間に齟齬があるとは認められないから、事業計画(案)概要と右事業計画書との間には、権利者の判断に影響を与えるような齟齬はないものと認められる。さらに、右1認定のとおり、事業計画(案)概要には、施行地区位置図、施行地区区域図及び縮尺一〇〇〇分の一の設計図は添付されていないのであるが、施行地区位置図と施行地区区域図は、施行地区を定めるために作成されるものである(規則五条一項)ところ、施行地区の区域は、事業計画(案)概要に記載されており、縮尺三五〇〇分の一の設計図からも明らかになる上、縮尺一〇〇〇分の一の設計図についても、それを簡略化した縮尺三五〇〇分の一の設計図が事業計画(案)概要に掲載されていたのであり、説明会では、縮尺一〇〇〇分の一の設計図が会場の前に張り出されたほか、閲覧コーナーにおいて、施行地区位置図、施行地区区域図、右設計図等の閲覧をすることもできたのである。したがって、事業計画(案)概要が配布されたのみであるとしても、権利者が事業計画について同意したものと認めることができる。

3  大都市法の改正に伴う定款案の変更について

右1(四)認定のとおり、平成七年五月二五日に、大都市法の改正に伴う定款案の変更がされたのであるが、右1(五)認定のとおり、本件組合の設立発起人らは、右定款案変更より前の平成七年四月ころから、権利者から同意書の提出を受けていたから、右定款案変更前にされた同意があるものと認められる。

しかし、定款案中の「大都市法一八条二項に基づき定める従前宅地の地積の合計」は、組合員のうちで集合農地区へ換地の申出をした者の従前宅地の地積の合計を意味するところ、〔証拠略〕によると、本件組合の設立発起人らが、平成四年一月に、権利者に対して、営農継続希望調査をしたところ、土地区画整理事業完了後農業を継続することを希望する者の従前宅地の地積の合計は、九・五二ヘクタールであったこと、本件処分後に集合農地区へ換地の申出をした者の従前宅地の地積の合計は数万平方メートルであったこと、以上の各事実が認められるから、定款案中の「大都市法一八条二項に基づき定める従前宅地の地積の合計」に関する規定の変更は、権利者の権利関係に何ら影響を与えるものではない。したがって、右定款案変更前にされた同意についても、本件申請に係る定款についての適法な同意と認めることができる。

4  同意の瑕疵について

右1認定の事実によると、本件組合の設立発起人らは、権利者から同意を得るに当たって、必要な事項の説明をしたものと認められる。

原告らは、本件組合の設立発起人らが、権利者を恫喝し、意図的に欺罔し又は権利者の不安や知識のないのに乗じて、同意を取った旨主張する(前記第二の二1(四))が、本件組合の設立発起人らが、権利者を恫喝し、意図的に欺罔し又は権利者の不安や知識のないのに乗じて、同意を取ったことを認めるに足りる的確な証拠はない。

また、別紙(二)記載の各同意者が同意書の日付の時点では死亡しており、その同意に効力がないとしても、これらの者の数(共有者については、法一三〇条一項により一人とみなす。)は三九人であるから、本件組合の施行地区内に宅地を所有する者二二三三人の七五・〇一パーセントに当たる一六七五人が同意したことになり、法一八条が定める三分の二を上回る。

したがって、権利者の同意に瑕疵があり、法一八条が定める三分の二以上の者の同意があるとはいえない旨の原告らの主張(前記第二の二1四)は認められない。

5  借地権者の同意について

(一)  法一九条は、法一八条の同意を得ようとする者は、あらかじめ、施行地区となるべき区域の公告を当該区域を管轄する市町村長に申請しなければならないこと(一項)、市町村長は、右申請があったときは、遅滞なく右公告をしなければならないこと(二項)、公告された区域内の宅地について未登記の借地権を有する者は、公告があった日から一か月以内に当該市町村長に対し、書面をもって、その借地権の種類及び内容を申告しなければならないこと(三項)、未登記の借地権で申告のないものは、法一八条の適用については、存しないものとみなされること(四項)、以上の各事項を規定している。

この規定は、未登記の借地権については、組合を設立しようとする者又は設立認可権者において、調査、把握することが困難で、事業の遂行を遅滞されるおそれがあるので、借地権者の側から借地権の種類及び内容を申告させ、申告のないものは存在しないものとみなすことにより、借地権者の保護を図りつつ、土地区画整理事業の円滑、迅速、画一的な施行を図った規定である。しかるところ、借地権者がその土地上に登記された建物を所有している場合に、常にその者の同意を要するとすると、土地上に土地所有者とは別の者が所有する登記された建物が存するとしても、借地権の有無は、それのみでは分からないから、更に調査をすることが必要となるのであり、そのようなことは、土地区画整理事業の円滑、迅速、画一的な施行を妨げることになる反面、「未登記の借地権」についても、適式な申告があれば、借地権者として扱われるのであるから、借地権者の保護に欠けることはない。したがって、「未登記の借地権」は、文字通り借地権について登記のない者と解するのが相当であって、土地上に登記された建物を所有している借地権者が有する借地権も、申告をしない限り、法一八条の適用については、存在しないものとみなされるというべきである。

借地借家法一〇条一項は、借地権が登記されていなくとも、借地権者がその土地上に登記された建物を所有していれば、第三者に対抗することができると規定するが、この規定は、借地権の第三者に対する対抗力について規定したものであって、土地区画整理事業においても、借地権者がその土地上に登記された建物を所有していれば、登記された借地権者と同様の取扱いをしなければならないものでないことは、明らかである。

(二)  〔証拠略〕によると、被告は、本件組合の設立発起人からの申請により、平成七年九月八日、法一九条二項が定める本件組合の施行地区となるべき区域についての公告をしたこと、その結果、別紙(三)記載の七人の者から、借地権の申告があったこと、本件組合の施行地区内には、借地権が登記されている宅地は存在しないこと、以上の各事実が認められる。

右1認定のとおり、本件申請に当たって借地権の申告をした別紙(三)記載の七人の者は、全員が同意書を提出しており、それ以外の者については、法一八条が定める借地権者の同意を必要としない。

原告らは、別紙(三)記載の七人の者のうち同2記載の北川清一については借地権が存せず、他の者についても借地権が存したか極めて疑問であると主張するが、これらの者が借地権者でなければ、同意を得るべき借地権者はいなかったことになるから、借地権者について、法一八条違反が生じる余地はない。

また、原告らは、別紙(三)の4記載の野田重忠の同意書の署名押印は、宅地所有者の野田正雄の同意書と同じであるし、別紙(三)の6記載の野田土地有限会社の同意書には、代表者の表示がないとも主張するが、これらのことのみで、同意書が無効であるということはできず、その他、借地権者の同意書の効力を否定すべき事情についての主張立証はない。

(三)  したがって、借地権者の同意についても、法一八条違反は認められない。

二  法一六条違反について

1  施行後の宅地の面積の内訳の定めがないことについて

(一)  〔証拠略〕によると、本件申請において提出された事業計画書中の「土地の種目別施行前後対照表」には、施行後の宅地については、合計地積が表示されているのみで、住宅地、田、畑、山林等の各地積が表示されていないものと認められる。

(二)  事業計画のうち設計説明書に記載すべき事項を定める規則六条二項は、「土地区画整理事業の施行後における施行地区内の宅地の地積(保留地の予定地積を除く。)の合計の土地区画整理事業の施行前における施行地区内の宅地の地積の合計に対する割合」を記載することを求めているので、事業計画では、施行後の宅地の合計地積を定める必要があるが、それ以上に、その種目別の地積まで定めることを求める規定はない。

また、〔証拠略〕によると、右事業計画書には、土地区画整理事業の施行後における、住宅地、商業地、工業地、集合農地、公益地、公共用地、その他の土地の各地積とその割合が記載されているから、土地区画整理事業の施行後における各用途地域ごとの地積は明らかになっているということができ、それと設計図(乙七)等を併せて見れば、土地区画整理事業の施行後における土地利用のおおよその状況は、明らかになっているということができる。

さらに〔証拠略〕によると、東海荒尾第二特定土地区画整理組合や春日井大留上土地区画整理組合では、事業計画書に、施行後の宅地の住宅地、田、畑等の各地積が記載されているものと認められるが、〔証拠略〕によると、これは、施行前の宅地の種目別の地積に平均減歩率を乗じただけのもので、実際の施行後の種目別の地積とは異なるものであると認められるから、他の組合において、事業計画書に、施行後の宅地の住宅地、田、畑等の各地積が記載されているとしても、それは意味のあるものではない。

以上を総合すると、本件申請において提出された事業計画書中の「土地の種目別施行前後対照表」に、施行後の宅地について、合計地積が表示されているのみで、住宅地、田、畑、山林等の各地積が表示されていないとしても、宅地に関する計画が適正でなく、法六条四項に違反するということはできない。

2  集合農地区の不足について

(一)  〔証拠略〕によると、本件申請に係る事業計画では、農業を継続する権利者に営農に適した農用地を確保するため、約六・〇ヘクタールの集合農地区を設定することを定めていることが認められる。

(二)  右一3認定のとおり、本件組合の設立発起人らが、平成四年一月に、権利者に対して、営農継続希望調査をしたところ、土地区画整理事業完了後農業を継続することを希望する者の従前宅地の地積の合計は、九・五二ヘクタールであったことが認められる。そして、〔証拠略〕によると、土地区画整理事業施行後の土地は減歩される(事業計画における平均減歩率三五・二一パーセント)ので、約六・〇ヘクタールの集合農地区を設定しておけば、右営農継続希望調査において農業を継続することを希望した者は、おおむね集合農地区へ換地されることになるので、右調査結果に基づいて約六・〇ヘクタールの集合農地区を設定することとされたことが認められる。

〔証拠略〕によると、右営農希望調査においては、権利者に対して、集合農地区の制度の概要と「正式な集合農地区への換地希望の調査は、組合設立後に行われるが、今回の調査は、平面図の作成に当たり目安を立てるために行うものである」旨を記載した書面とともに、調査表が配布され、権利者が、それに記入して回答する形式で調査が行われたこと、平成三年一二月には、土地区画整理事業や営農希望調査についての説明会が開催され、口頭での説明が行われたこと、以上の各事実が認められ、その過程において誤った説明がされたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

そうすると、右営農希望調査に基づいて定められた集合農地区に関する事業計画は適正なものということができる。

(三)  原告らは、本件組合の施行地区の生産緑地に指定された区域内には一一・〇七ヘクタールの農用地があるところ、右の生産緑地に指定された区域内にある従前地のうち二・〇七ヘクタールは集合農地区に換地されないことになるとも主張する。確かに、事業計画で定められた集合農地区は約六ヘクタールであるから、右の生産緑地に指定された区域内にある従前地の所有者がすべて集合農地区への換地を希望すれば、集合農地区へ換地されない者が生じるおそれがあるが、〔証拠略〕によると、生産緑地に指定された区域内に農用地を有する者でも、必ずしもその土地で農業を継続することを希望していないことが認められ、右営農希望調査において農業を継続することを希望した者の従前宅地の地積の合計も、九・五二ヘクタールであったのであるから、集合農地区への換地を希望したにもかかわらず集合農地区へ換地されない者が多数生じることになるとは考えられない。

なお、原告らは、集合農地区への換地の申出をする際に、誤った教示がされたので、申出をすることができなかった者があった旨の主張をし、原告野田幸子は、本件組合設立後、集合農地区への換地の申出をする際に、本件組合の理事が誤った説明をした旨の供述をするが、本件組合設立後の集合農地区への換地の申出をする際に生じた事実は、本件処分時における事業計画の適法性とは関係がない。

(四)  したがって、本件申請に係る事業計画が、農業を継続する権利者に対して集合農地区への換地を付与しないという点において適正を欠くということはない。

3  集合農地区の定め方について

原告らは、事業計画において集合農地区を設定する場合には、従前地の位置、地積、利用状況等を反映したきめの細かい集合農地区の設定をすべきであるのにそれがされていないと主張するが、送電線設置のための地役権が設定されている農地の場合を除いては、本件申請に係る事業計画において集合農地区の設定が適正を欠く具体的な事情についての主張立証はなく、送電線設置のための地役権が設定されている農地についても、その土地又はその周辺を含む一帯を集合農地区と定めることが可能であると認めるべき具体的な事情についての主張立証はないから、本件申請に係る事業計画が、集合農地区の定め方について適正を欠くと認めることはできない。

三  必要な経済的基礎及びその他の能力の欠如について

1  保留地処分金について

(一)〔証拠略〕によると、本件申請に係る事業計画中の資金計画では、総事業収入四六二億円のうち三〇四億二九〇〇万円が保留地処分金であることが認められ、保留地処分金の総事業費収入に対する割合は六五・八パーセントである。保留地処分金の割合が高いからといって、直ちに必要な経済的基礎を欠くということはできない上、〔証拠略〕によると、他の組合における保留地処分金の総事業費収入に対する割合は、別紙(六)のとおりであることが認められ、本件組合より保留地処分金の総事業費収入に対する割合が高い組合が多数存するのであるから、このことに照らしても、本件組合が、「必要な経済的基礎が十分でない」(法二一条一項四号)ということはできない。

(二)  〔証拠略〕によると、本件申請に係る事業計画では、施行地区内の宅地の土地区画整理事業施行前の価格の総額は、一四〇一億七五七九万七〇〇〇円、地積は一七四万一三一四・二六平方メートル(別紙(五))、一平方メートル当たりの平均価格は八万〇五〇〇円であり、右宅地の同事業施行後の価格の総額は、一七五九億六二九四万九〇〇〇円、地積は一三六万四〇五三・八七平方メートル、一平方メートル当たりの平均価格は一二万九〇〇〇円であること、右の宅地の事業施行後の一平方メートル当たりの平均価格に、保留地予定地の地積二三万五八八三・七二平方メートルを乗じた三〇四億二九〇〇万円が、保留地処分金による収入として見込まれていること、右の事業施行前と施行後の価格の違いは、土地区画整理事業が行われて、道路等の公共施設が整備され、宅地の区画が整然となること等による価格の上昇であること、以上の各事実が認められる。

〔証拠略〕によると、本件組合の施行地区内の土地の平成七年の公示価格(一平方メートル当たりの価格)は、大字中志段味字東山島が八万四五〇〇円、大字中志段味字大洞口が八万七五〇〇円であり、平成八年度の公示価格も同額であったものと認められるから、右の事業計画における事業施行前の宅地の価格は特に不合理であるとは認められない。そして、土地区画整理事業が施行されると、地価は、かなり上昇するから、それを考慮して、右の一平方メートル当たり一二万九〇〇〇円という価格は定められたものである。

〔証拠略〕によると、本件組合の施行地区の南西に位置する名古屋市守山区大字吉根を施行地区とする名古屋市吉根特定土地区画整理組合の平成五年に変更された事業計画では、保留地処分金の額は三〇九億二一五一万八〇〇〇円、地積は二七万五六一六平方メートルであるので、一平方メートル当たりの価格は一一万二一九〇円であること、同組合は、平成八年から平成九年にかけて、保留地の売却を行っているが、平成八年八月と平成九年一月にそれぞれ申込みを受け付けた土地は、一平方メートル当たりの価格が一一万円台のものが多く、一二万円台や一三万円台のものも見られること、平成九年五月に申込みを受け付けた土地は、一平方メートル当たりの価格が一三万円台のものが多いこと、平成八年八月と平成九年一月に申込みを受け付けた右土地合計七四筆のうち、その六二パーセントに当たる四六筆が平成九年五月までに売却され、残りの二八筆の中にはその後売れた土地があること、以上の各事実が認められる。そして、〔証拠略〕によると、吉根は、中志段味よりは、距離的には、名古屋市の中心部に近いことが認められるが、土地の価格は、必ずしも市の中心部に近いということだけではなく、道路の接続状況等の諸般の事情によって決まるものであるから、直ちに、吉根の地価が、中志段味の地価より、一般的に高いということはできないし、名古屋市吉根特定土地区画整理組合における右売却価格や売却状況も考慮すると、同組合における保留地処分との比較から、本件組合における一平方メートル当たり一二万九〇〇〇円という価格が不合理であるとまでは認められない。

また、一般的に地価が下落しているからといって、直ちに、本件処分時において右の一平方メートル当たり一二万九〇〇〇円という価格が不合理であったとは認められず、その他、本件処分時において右価格が不合理であったとすべき事情は認められない。

したがって、保留地が予定した価格で処分できないから、本件組合は「必要な経済的基礎が十分でない」ということはできない。

2  名古屋市の助成金について

〔証拠略〕によると、本件申請に係る事業計画の資金計画には、下水道整備費として名古屋市からの助成金九億四五〇〇万円が収入に計上されていること、右助成金は、名古屋市土地区画整理事業助成要綱に基づいて、名古屋市から交付されるものであるが、同要綱は、「第三採択基準」において、「施行地区の権利者の大部分の同意があること」を一つの要件としており、名古屋市土地区画整理事業助成要綱施行細則の第四には、「要綱第三に規定する『大部分の同意』とは、おおむね八〇パーセント以上の同意とする。」と定められていること、以上の各事実が認められる。

確かに、右一認定のとおり、施行地区内の宅地所有者のうち定款及び事業計画に同意した者は、全宅地所有者の八〇パーセントに満たないが、少なくとも七五パーセントの者は同意しているのであり、借地権者については、一〇〇パーセントの者の同意がある上、〔証拠略〕によると、名古屋市は、右の同意の状況から、名古屋市土地区画整理事業助成要綱及び同要綱施行細則の基準を満たすものとして助成金を交付する意向であることが認められるから、右助成金の交付を受けられないから本件組合は「必要な経済的基礎が十分でない」ということはできない。

なお、原告らは、右助成金の交付の関係でも、同意の対象の誤りや同意の瑕疵を主張するが、右一認定のとおり、同意の対象たる事項は誤っておらず、詐欺又はこれに類する方法をもって同意を取り付けたとも認められないから、原告らの右主張を採用することはできない。

3  その他の能力の欠如について

法二一条一項四号の「(土地区画整理事業)を的確に施行するために必要なその他の能力」とは、技術的能力や社会的信用等を指すものと解される。

原告らは、本件組合については、資金計画を含む事業計画の策定手続と内容に大きな問題が存すること、定款及び事業計画の権利者に対する説明が極めて不十分であること、その同意の取付けが、情報を十分に開示した後にされたものではなかった上、不法な手段を用いて同意を取ったものが少なからずあったことの各事情があるから、土地区画整理事業を的確に施行するために必要なその他の能力が十分でないと主張するが、既に述べたとおり、これらの事情は認められないから、原告らの右主張を採用することはできない。

そして、弁論の全趣旨によると、本件組合は、土地区画整理事業を行うに当たり、コンサルタントや名古屋市の援助を受けることができるので、それらによって技術的能力を補充することができるものと認められるのであるし、本件組合について特段社会的信用が劣るというべき事情も認められないから、本件組合は「(土地区画整理事業)を的確に施行するために必要なその他の能力」が十分でないということはできない。

四  結語

以上の次第で、原告らが主張する本件処分の違法事由はすべて認められないから、本件請求は、理由がない。よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田武明 裁判官 森義之 鈴木和典)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!